東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)247号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の特許請求の範囲)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
また、審決は、拒絶理由通知で問題とされた特許請求の範囲の「手動操作」及び「警備状態」の意味は昭和六一年六月一六日付け手続補正書に基づく補正により明確にされ、本件出願は、明細書及び願書添付図面が「確認」すなわち、「単位警備区域が正常に警備状態に設定されたことが確実に検出される」の意味が明確でない点において記載不備であつて、特許法第三六条第三項、第四項に規定する要件を満たしていないとの理由によりなされたことは、被告の主張から明らかである。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いない甲第二号証、第四号証及び第六号証によれば、本願明細書及び手続補正書には、本願発明の目的、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
本願発明は、工場、ビル等を盗難、火災などから守るための警備方式に関するものである(本願明細書第一頁第一七行及び第一八行)。従来、事務所、店舗等が同居する総合ビルの警備を行う場合には、総合ビル内の各テナントに所定の検出器を配設し、各テナントからの各センサ回路を、ビル内の管理室のセンサ回路に接続し、この管理室のセンサ回路を介して外部の所定の管制部と接続できるように構成すると共に、玄関、廊下等の共用部分に配設された検出器からのセンサ回路は、前記各テナントのセンサ回路とは別個独立に外部の管制部と接続できるように構成するが、各センサ回路を管制部に接続する操作は管理室にて手動操作により行い、接続操作後は、管制部において、センサ回路を介してビルにおける異常状態を監視して警備を行つている。このため、あるテナントが無人化しても、テナントのセンサ回路を管制部に接続するための管理室内のセツトスイツチを投入しない限り、警備システムが作動状態とならないので、退出時には必ずセツトスイツチを投入する必要があるが、操作が複雑な上、スイツチの入れ忘れが極めて多いのが現状である。さらに、このような警備システムでは、最終退出者は、退出時に自己のテナントのセツトスイツチを投入するほかに、共有部分に関するセンサ関係のセツトスイツチを投入し、場合によつては、ビルの入口の施錠を行うことも要求されるが、各テナントの営業終了時刻が異なつている場合には、自分が最終退出者であるか否かが分からず、結局共有部分等については誰もセツトスイツチを投入せず、したがつて、ビル全体が無人化した状態にあるにもかかわらず、共有部分についての監視を行うことができない状態が頻繁に発生している。このように、従来のビル等の警備システムにおいては、セツトスイツチの操作の管理が全面的に人手によつて行われているため、保安上の大きな問題点を有している(同第二頁第五行ないし第三頁第一九行)。本願発明の目的は、従来方式の右欠点を解消したビル等の警備方式を提供することにあり(同第三頁第二〇行及び第四頁第一行)、この目的を達成するために、特許請求の範囲(昭和六一年六月一六日付け手続補正書第三頁第一行ないし第一六行)記載の構成を採用したものである。
第1図(別紙参照)によつて本願発明の一実施例を説明すると、この警備システム1は、総合ビル2を盗難、火災から守るためのものであり、総合ビル2は、各テナントの室内3ないし6、玄関、通路を含む共用区域7、及び機械室8がそれぞれ、警備上の一つの単位区域となつている。これらの単位区域には、それぞれ、火災検出器9aないし9fと、盗難防止用検出器10aないし10fが配設されている(同第四頁第四行ないし第一二行。以下、火災検出についての説明は省略する。)。盗難防止用検出器10aないし10fの各出力は、制御装置11にそれぞれ入力されている(同第四頁第一九行ないし第五頁第一行)。機械室8には、各種機械設備に関する異常状態を検出するための機械設備用検出器12が設けられており、この検出器12からの出力も、制御装置11に接続されていて、これらの各検出器10aないし10f及び12からの各出力は、制御装置11によつて集信され、送信機EGを介して公衆回路13に送出され、図示しない管制部に盗難/異常信号として送出される。この集信された信号を管制部に送出するのを制御するために、制御装置11には、ビル2の出入口16付近の内側に設けられた内部カードリーダ14と、出入口16付近の外側に設けられた外部カードリーダ15とが接続されている。内部カードリーダ14は、磁気カード読取装置であり、このビルのビルコードと、各テナントにあらかじめ付与されているテナントコードとが磁気記録されている磁気カードの、各コードを読み取るためのものである。各テナントにおける最終退出者が、自己のテナントの磁気カードを内部カードリーダ14に挿入して、その記録されている自己のテナントのコードを制御装置11に入力することにより、制御装置11はその入力コードに対応するテナント内に配置された盗難防止用検出器のみを作動状態とする。したがつて、無人化したテナントは、所定の磁気カードが挿入されることにより、単位区域ごとに警備状態となる。このようにして、順次各テナントが警備状態とされ、最後のテナントの最終退出者が磁気カードを内部カードリーダ14に挿入すると、その対応するテナントが直ちに警備状態となると共に、所定時間後、共用区域7が自動的に警備状態にセツトされ、かつ、ビル2の出口16に設けられた電気錠17が自動的に施錠され、ビル全体が警備状態とされる。この所定時間は、最終テナントの最終退出者が磁気カードを内部カードリーダ14に挿入後、これを取り出して出口16から退出するに要する時間にほぼ等しく設定すればよい(同第五頁第七行ないし第七頁第三行)。また、機械室8内の検出器12は、常時作動状態にあるが、検出器12はビル2が無人化したときのみ管制部と接続され、ビル2が無人化していないときはビル2内に設けられた警報装置(図示せず)に接続されている(同第七頁第六行ないし第一〇行)。外部カードリーダ15は、施錠状態にあるビル2内に入る場合に用いられるものであり、いずれかのテナントのコードが記録されたカードが外部カードリーダ15に挿入されると、制御装置11はこの読み取られたコードを解読し、いずれかのテナントのコードであると判断した場合には、電気錠17が解錠され、ビル2内に入ることができる状態となる。そして、入口16から内部に入り、入口16のドアが閉まると、電気錠17は再び自動的に施錠され、カードを持たない者がビル2内に入ることができない状態となる。次いで、磁気カードを内部カードリーダ14に挿入することにより、制御装置11はいずれのテナントのコードであるかを判読し、そのコードに対応する単位区域の警備状態を解除すると同時に、入口16の電気錠17が解錠され、共用区域7の警備状態も解除される。したがつて、次のテナントの入居者はカードを使うことなく入口16からビル2に入ることができ、内部カードリーダ14にカードを挿入することにより、自己のテナントの警備状態を解除する。以後同様にして、各入居者は自己のテナントの警備状態を解除して、自己のテナントに出入りすることができる。この警備システムでは、各入居者は、退出時に自己のカードを内部カードリーダ14に挿入するだけで、自己のテナントのみを自動的に警備状態とすることができ、かつ、最終テナントの退出者がカードを内部カードリーダ14に挿入すると、その最終テナントが警備状態になるのはもちろんのこと、共用区域7も自動的に警備状態となるので、各テナントの入居者は、自分が最終退出者であるか否かを確認する必要がなく、最終退出者の退出によりビル2全体を確実に警備状態とすることができる(同第七頁第一七行ないし第九頁第九行)。
第2図(別紙図面参照)には、第1図に示した警備システムの電気系統の回路図が示されている(同第九頁第一一行及び第一二行)。
第2図に示す回路の動作を説明すると、ビル2内の各テナントのいずれにも入居者が存在している場合には、分別出力回路31はリセツトされており、各制御信号S31aないしS31fのレベル状態は「0」であるので、各セツト回路33aないし33fからの検出信号S33aないしS33fは「0」レベルであり、アンド22回路は閉じている。このためアンド回路22の出力は「0」であり、他のアンド回路20・21・24は閉じられている。このように、アンド回路20、21の出力は共に「0」であり、かつ、各セツト回路33aないし33fからの検出信号S33aないしS33fも「0」であるから、オア回路25の出力は「0」に保持されていて、各検出器10aないし10fの出力状態のいかんにかかわらず、オア回路25の出力は「1」となることがない。したがつて、オア回路25の出力に接続されている送信機EG(第1図参照)は、これらの検出器の作動に応答して所定の信号を出力することがない。
次に、いずれかのテナントの入居者が退出する際に、自己のカードを内部カードリーダ14に挿入すると、このカードに記録されているビルコードとテナントコードが読み出され、分別出力回路31はそのテナントに対応したいずれかの制御信号を「1」とする。例えば、室3の入居者が自己のカードをカードリーダ14に挿入すれば制御信号S31aが「0」から「1」に変化し、「1」状態に保持されるので、セツト回路33aが作動し、検出信号S33aは検出器10aの出力に応答してそのレベルが変化するようになる。検出信号S33aはオア回路25を介して送信機EGに入力されているので、室3に侵入者があつた場合には、検出器10aが侵入者の存在を検出した時に、検出信号S33aのレベルが「1」となり、図示しない管制部に警報を送ることができる。すなわち、室3のみが警備状態となる。次に、例えば室4の入居者が退出し、同様にして所定のカードを内部カードリーダ14に挿入することにより制御信号S31bが出力され、同様にして検出器10bが送信機EGと接続されるので室3と室4のみが警備状態となる。このようにして、室3、4、5、7が無人化した場合に、室6の入居者が退出し、所定のカードをカードリーダ14に挿入すると、制御信号S31dが「1」となると同時に、分別出力回路31は、制御信号S31aないしS31eがすべて「1」となつたことを検出して、制御信号S31fを「1」とする。こうして、セツト回路33dと33fとが作動状態となり、アンド回路22の各入力に印加されている信号がすべて「1」となるので、アンド回路22の出力が「1」となる。この結果、アンド回路20、21の各一方の入力のレベルが「1」となるので、検出器10f及び12からの検出信号が得られた時に、信号S34及び又はS33fが「1」となることに応答して、アンド回路20、21の出力が変化する。すなわち、最終退出者が所定のカードを内部カードリーダ14に挿入することにより、検出器12と共用区域7の検出器10fの出力が自動的にオア回路25を介して送信機EGに接続され、すべての単位区域が警備状態となる(同第一二頁第九行ないし第一五頁第八行)。このときに共用区域7の検出器10fが異常を検出した場合には、共用区域7に例えば窓の閉め忘れがあるなど、共用区域が正常な警備状態下におかれていないことが直ちに判明するので、これに対して適切な対策処置をとることができる(昭和五九年九月七日付け手続補正書第二頁第九行ないし第一三行)。
アンド回路22の出力は、アンド回路24にも入力されており、したがつて、アンド回路22の出力が「1」であるときに開閉検出器37から「1」レベルの信号が発せられると、アンド回路24の出力が「1」となり、アンド回路24からのこの「1」の信号は、施錠信号S24として電気錠17に入力され、入口のドア16は外側から開かないが、内側からは開扉可能の状態となる。したがつて、最終退出者がカードを内部カードリーダ14に挿入すると、全検出器が送信機EGと接続された状態となるほか、最終退出者がビル2の外に出て、ドア16を閉めると、すでに作動状態にある電気錠17により、ドア16は外側からは開扉できない状態になる。最終退出者がドア16を開けてビル2外に出たが、ドアを閉めるのを忘れた場合には、所定時間後にタイマ回路36が作動し、出力信号S36が「0」となり、これによりインバータ28の出力が「1」となるため、アンド回路23の出力が「1」となり、オア回路25の出力を「1」として管制部に警報を発するようになつている。したがつて、ビル2の最終退出者がドア16を閉め忘れるか、あるいは閉めてもドア16が何らかの原因でわずかに開いた状態のままであつても、これを確実に検出することができる(本願明細書第一五頁第九行ないし第一六頁第一二行)。
このように、本願発明によれば、総合ビル等において、共用区域等の警備上の責任が不明確な区域があつても、これらの区域を、最終退出者が退出すると同時に確実に警備状態とすることができるので、ビル等の警備を極めて簡単かつ確実に行うことができる利点を有する(同第一八頁第一六行ないし第一九頁第一行)。
以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。
3 右認定事実によれば、審決においてその意味が明瞭でないとされている補正後の特許請求の範囲の「警備状態に設定されたことが確実に検出される」という要件の「警備状態」は、発明の詳細な説明において、「制御信号S31aが「0」から「1」に変化し、「1」状態に保持されるので、セツト回路33aが作動し、検出信号S33aは検出器10aの出力に応答してそのレベルが変化するようになる。検出信号S33aはオア回路25を介して送信機EGに入力されているので、室3に侵入者があつた場合には、検出器10aが侵入者の存在を検出した時に、検出信号S33aのレベルが「1」となり、図示しない管制部に警報を送ることができる。すなわち、室3のみが警備状態となる。」(本願明細書(ただし、昭和六一年六月一六日付け手続補正書による補正を含む。以下同じ。)第一三頁第一五行ないし第一四頁第五行)、「制御信号S31bが出力され、同様にして検出器10bが送信機EGと接続されるので室3と室4のみが警備状態となる。」(同第一四頁第七行ないし第九行)及び「最終退出者が所定のカードを内部カードリーダ14に挿入することにより、検出器12と共用区域7の検出器10fとの出力が自動的にオア回路25を介して送信機EGに接続され、全ての単位区域が警備状態となる。」(同第一五頁第四行ないし第八行)と説明されている。したがつて、前記「警備状態」は、制御信号S31aないしS31fが出力されてセツト回路33aないし33fが作動する結果、検出器10aないし10f及び12と送信機EGとが接続された状態、すなわち、検出器10aないし10f及び12が発する検出信号S33aないしS33f及びS34を管制部に送り得る状態を意味することが明らかである。そうすると、本願発明の特許請求の範囲にいう「警備状態に設定されたことが確実に検出される」とは、検出器10aないし10f及び12と送信機EGとが接続されたときに、そのこと自体を管制部において確実に検出し得ることでなければならない。しかしながら、本願発明が、いずれかの単位警備区域の検出器から管制部に対して警報を送り得る状態になつたこと自体を管制部に伝える構成を持つていないことは、原告の自認するところである。この点に関して、原告は、<1> 最終退出者の退出の際、共用区域7のドアが閉め忘れられている異常についての警報、<2> 最終退出者の退出後、共用区域7に例えば窓の閉め忘れがある場合等の異常についての警報、及び<3> 最終退出者の退出の際、共用区域7のその他の異常についての警報の各発出によつて、共用部分等の単位警備区域が警備状態に設定されたことが検出され得ると主張する。
しかしながら、これらの警報は、検出器10aないし10f及び12と送信機EGとが接続されたときに発せられるものではないし、かつ、これらの警報によつて検出され得るのは、単位警備区域が正常な警備状態に設定されていない状態であつて、これが検出器10aないし10f及び12と送信機EGとが接続された状態と異なることはいうまでもない。要するに、本願発明においては、いずれかの検出器によつて異常が検出され、管制部に対し検出信号、すなわち盗難/異常信号(本願明細書第五頁第一四行)が送られたときに、初めてそれまで警備状態にあつたことがさかのぼつて判明するものにすぎず、発明の要件とされている「警備状態に設定されたことが確実に検出される」構成は、発明の詳細な説明にも願書添付図面にも全く開示されていないといわざるを得ない。なお、原告は、ビル等の警備方式においては、単位警備区域が正常な警備状態におかれていない旨の警報の不存在が、正常な警備状態に設定されたことの確実な検出であると取り扱われることができると主張している。しかし、前記の本願発明の構成からすれば、いずれの単位警備区域も警備状態に設定されていないときも、管制部に対して何の信号も発せられないことが明らかであるが、この両者を区別する方法は、本願明細書において何ら開示されていない。したがつて、正常な警備状態におかれていない旨の警報の不存在によつて、すべての単位警備区域の検出器が管制部に警報を送り得る状態に設定されたことを検出できるとする原告の主張は、明らかに失当である。
4 以上のとおりであつて、本願明細書は特許法第三六条第三項第四項に規定する要件を満たしていないとする趣旨の審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
警備すべき空間を複数の単位警備区域に区画し、前記単位警備区域の夫々に異常状態を検出する検出器を設け、前記単位警備区域のうちのいくつかの特定の単位警備区域については、該特定の単位警備区域毎に適宜に定められた責任者の操作にもとづき動作する警備状態セツト用制御装置によつて、該特定の単位警備区域を個々に前記検出器による警備状態とし、該特定の単位警備区域がすべて警備状態とされたことを検出する検出装置の検出に応答して、該特定の単位警備区域以外の所要の共用部分等の単位警備区域を、前記検出器を用いて自動的に警備状態にすることにより、該共用部分等の単位警備区域が正常に警備状態に設定されたことが確実に検出されるようになつていることを特徴とするビル等の警備方式